応接室には1枚の絵が掛かっていた。日本を代表する洋画家、梅原龍三郎(1888~1986)が描いた中国服姿の彼女だった。東京の自宅マンションでインタビューに応じるとき、彼女はいつもその絵を背にして座った。 私は朝日新聞が所蔵する戦前・戦中の中国各地の写真を持参していた。その中から、名門ホテル・北京飯店の屋上から街並みを撮った1枚を見いだすと、彼女は「これも、北京飯店の一室で描かれました」と絵に指先を向けた。 「先生は、私の顔を見て『右の目と左の目が違う。右の目は自由奔放そうで、左の目はおとなしい』とおっしゃいました」 元女優・李香蘭こと山口淑子さん(1920~2014)。存命だった2007年10月~08年2月に3回インタビューしたときの一場面だ。戦前・戦中の大陸の写真のうち、彼女にゆかりがあるものについて感想を聞く取材だった。 「バカな戦争でした。どれだけの人の命を奪ったことか。特に若い人の