今までは何でも兄と相談し、「兄の考えを具現化するのが私」というのが岸平さんのワイナリーでの立ち位置だった。ブドウ畑とワイン造りの現場が好きで、学者肌でワインのための研究室にこもりがちな岸平さんも、営業や経営と向き合わざるを得なくなった。 さらに大変だったのは、今まで兄が“緩衝材”になってくれていた「父との対立」だった。 「何をしてるんだ!」。ある日、近隣の農家から仕入れたブドウを選別していた岸平さんに父の怒号が響いた。タケダワイナリーは自家栽培のブドウを使った「ドメイヌ・タケダ」と、山形県の近隣の農家から買い入れるブドウで造るワインの「タケダワイナリーシリーズ」の2ブランドを持っている。 仕入れたブドウの劣化した実を岸平さんがはじいていた時、父の怒りが降ってきたのだ。「代々一緒にやってきた農家が作ってくれたブドウを捨てるとは、何ごとだ!」。それでも選別をやめない岸平さんに、父は彼女が捨てた