「もうこの籠を背負うこともないかね」。石山文子さんの笑顔は心なしか寂しそうだ=茨城県利根町布川で2022年12月25日午後2時19分、堀井泰孝撮影 「蒸気機関車がポー、ポッポーって近づいてくるんよ」。茨城県利根町布川の石山文子さん(93)は懐かしそうに目を細める。駅ホームに設置された行商台から体重の2倍近くある籠を背負い、前かがみになり行商列車に乗り込む。東京・銀座の「最後のカラス部隊」が約70年間、毎朝繰り返した日常だ。新型コロナウイルスの感染拡大で休止して間もなく3年。「電車に乗らなくなって足腰が弱ってしまった。もう行けないよ」。石山さんはついに籠を下ろした。【堀井泰孝】 1923年の関東大震災後、茨城や千葉の農民が野菜を担いで国鉄(現JR)常磐線、成田線で東京に通い、行商は広まる。戦後、東京の食糧難を補い、農家の現金収入獲得のために本格化。当時は米の売買が主流だったが、42年制定の食