本来と違った読み方を指定するためにルビを振った短歌をよく見かける。多いのは「息子」に「こ」、「亡夫」に「つま」と付けるタイプである。時には「瞬間」に「とき」とルビが振ってあったりする。これは歌謡曲の影響だろうか。 歌謡曲の歌詞には、しばしばこの手のルビが付いている。「未来」に「あす」、「宇宙」に「そら」、「真剣」に「マジ」、「都会」に「まち」など、いくらでも見つけることができる。 こうした「当てルビ」とも言うべきルビは、近年になって始まったものかと思っていたのだが、どうもそうではないらしい。先日読んだ正津勉『忘れられた俳人 河東碧梧桐』によれば、昭和の初めに「ルビ俳句」というものがあったそうだ。正津によれば、それは次のようなものである。 これは端的にいえば、音数の多い漢字熟語の正規の読み方にかえて、なにかと複雑になりがちな現今の人間にふさわしい表現のために、当て読みを含めた短い音数の振り仮