2015年9月17日(木曜日) 1.896自治体 この“896”という数字について、何の数字か、すぐお気づきになられる方も多いでしょう。元総務大臣、増田寛也氏を座長とする「日本創成会議」の人口減少問題検討分科会が発表した「2040年までに消滅する恐れがある896市町村」のことです。通称「増田レポート」(注1)と呼ばれるこの報告は、2010年の国勢調査に基づいた試算で、2040年時点で20~39歳の女性人口が半減する自治体を「消滅可能性都市」と見なしています。つまり、女性が減少し、出生数が減っていき、人口が1万人を切ると、自治体経営そのものが成り立たなくなるということを示しているもので、その数は全国約1800市町村のうち約半分に相当しています。 【図1】2010年から2040年の20~39歳の若年女性人口の変化率でみた自治体数 (出典)国立社会保障・人口問題研究所「日本の地域別将来推計人口推
―人手不足時代と「日本的雇用」の桎梏― 2015年8月18日(火曜日) はじめに わが国経済が抱える最大の課題が人口の減少にあり、また人口減少に先立つ生産年齢人口の減少とそれに伴う人手不足である点には、大方の合意が得られるだろう。筆者も約1年前の本欄(「人手不足時代の到来(上) ~その背景とマクロ的帰結~」)において、人手不足時代の到来とその含意について論じておいた。人手不足に対しては、言うまでもなく1人当たり生産性を高めると同時に、女性と高齢者の労働参加を促して行く必要がある。また、短期的な効果は期待し難いとしても、より根本的には人口の減少に歯止めを掛ける必要があり、そのためには子育てを支援するだけでなく、そもそも若者が結婚や出産に前向きとなれる環境を整えることが求められる。 もちろん、これらの課題は広く認識されており、女性の活躍、子育て支援といった形で政府の成長戦略にも取り入れられてい
2015年8月7日(金曜日) はじめに(製造業の覇権を争うドイツとアメリカ) エマニュエル・トッドの最新作「ドイツ帝国が世界を破滅させる」は大変衝撃的な著作である。この過激なタイトルそのものには、私は、とてもついて行けない。しかし、この著作の内容には、逐一、「なるほど」と頷けることが多い。ソ連の崩壊、アメリカの金融崩壊、アラブの春を正確に予測した偉大な歴史学者トッドが、今回は、ドイツが米国、中国と並んで世界の三極体制を形成するに違いないと予言している。今年の4月28日、ブリュッセルで開かれた日本-EU官民合同会議(日-EU BRT:EU-Japan Business Round Table)で、私は、ドイツが自国の製造業の進展に向けて、米国と中国に真っ向から対抗しようとしていることを、EUに駐在する日本政府関係者から改めて知らされた。 もし、世界が金融業で覇権を争うのであれば、それは米国と
発行日 2015年8月7日 経済研究所マネージャー 藤田 英睦 【要旨】 AIの社会実装については、さまざまな懸念がある。AIがどうやって解を導き出したのか人間には分からなくなる。人間が介在せずに機械が自律的な行動を取るようになる。そこでは法的・倫理的に重大な問題が生じる。人の生に関わることについて、すべてを機械に委ねられるのか。そしてAIにより雇用がなくなるとき、市場経済はどう維持されるのか。雇用なき社会で、人はどう生きるのか。AIについて語るときに我々の語ること、それは人間と社会の本質にほかならない。 百花斉放百家争鳴 AIの研究開発が進展するなかで、その社会実装について不安視する声も上がっている。物理学者のスティーヴン・ホーキングや元マイクロソフトCEOのビル・ゲイツは、AIは人類にとって深刻な脅威になりうると表明している。米国のボランティア団体FLI(Future of Life
発行日 2015年7月29日 上席主任研究員 米山 秀隆 【要旨】 中古住宅の購入時に物件の履歴情報を参照できるシステムの試行運用が始まった。買主は購入検討時に履歴情報を参照することで物件の状態を詳細に把握でき、売主は適切な維持管理・修繕を行ってきたことで評価額が上がるというメリットが得られる。 不動産総合データベースが軌道に乗れば、中古取引が活性化し、新築が圧倒的なシェアを占める日本の住宅市場に変化をもたらす可能性がある。 将来的には、自治体が履歴情報を活用して物件の状態を把握できるようになれば、空き家対策や課税適正化、まちづくりにも活かしていける可能性がある。 不動産総合データベースの試行運用が開始 国土交通省が整備を進めてきた「不動産総合データベース」の試行運用が、6月から横浜市で開始された(試行運用期間は来年2月までを予定)。不動産を購入する際に判断材料となる情報を集約し、不動産業
―「成長頼みの財政再建」の罪― 2015年6月16日(火曜日) はじめに 日銀が量的・質的金融緩和(以下ではQQE)を開始して2年目に当たる今年4月のコアCPI(消費者物価指数、生鮮食品を除く総合)の前年比は、消費税の影響を除くと、ちょうどゼロでした。日銀自身はまだ「2年程度で2%」の旗を降ろしていませんが、常識的に考えればQQE開始時のインフレ目標に関する約束が実現されなかったのは明らかです(注1)。こうした中で、日銀は5月初めに『「量的・質的金融緩和」:2年間の効果の検証』というレポート(以下では、このレポートを「日銀レビュー」と呼びます)を公表して、「実際の経済・物価は、概ね『量的・質的金融緩和』が想定したメカニズムに沿って動いている」と、QQEの効果を改めて強調しました。 より具体的に見ると、日銀はQQE導入後の10年物国債の利回り低下と、各種データから推測される期待インフレ率の上
2015年5月28日(木曜日) 富士通総研は米国西海岸のシリコンバレーにあるFujitsu Laboratories of America (以下、FLA)を活動拠点とし、米国ビジネスの動向調査を行っています。今回は、日本でも注目を浴びている、Internet of Things(以下、IoT)を例に、米国・シリコンバレーがビジネス創出の場として、どのように活用されているかを紹介します。 1. 様々な利害関係者が集まる場 多くのIT企業・スタートアップとベンチャーキャピタルがシリコンバレーに集まっていることは日本でもよく知られています。近年は、これら企業のエンジニア、投資家に加えて、事業会社が研究開発の拠点を設けるようになってきました。例えば、米国の産業IoT先進企業の1つであるGE(General Electric)は、シリコンバレーの対岸にあるSan Ramonにソフトウエアの研究開発
2015年4月10日(金曜日) 日本は少子高齢化という社会問題を抱えており、世界で最も高齢化が進んだ「高齢先進国」と言われています。この問題の解決策の1つとして地域包括ケアシステムが検討されています。それは、各地域の住民が住み慣れた地域で、自分らしい暮らしを人生の最後まで続けられる、働ける人には働ける環境を提供する社会システムです。富士通総研は、地域住民の幸せのために何が必要なのか、その中で我々に何ができるのかの答えを模索しながら、各地域の地域包括ケアシステムの実現に寄与していきたいと考えています。 1. 地域包括ケアシステムの社会的背景 地域包括ケアシステムの背景には、やはり少子高齢化という社会問題があります。高齢化は先進国を中心に大きな問題となっており、その中でもわが国の高齢化は比較にならないスピードで進行し、まさに日本は、世界で最も高齢化が進んだ「高齢先進国」と言われています。その日
2015年3月16日(月曜日) 1. 「インフレ期待」と「デフレ・マインド」 最近の黒田日銀総裁の講演を読んでいて気づくのは、以前の「インフレ期待」という表現に替わって、「デフレ・マインド」という言葉が多く使われていることである。この2つの言葉がどれだけ区別して使われているのか定かでないが、「デフレ・マインド」の英訳がdeflation mindsetとなっている点を踏まえると、ある程度区別して考えるべきではないかと思う。インフレ期待が単に「先行きの物価上昇率に関する予想」を意味する一方、デフレ・マインドは「デフレ時代に身に付いた思考法」と捉えられるからだ。 実際、昨年12月に経団連で行われた講演で、黒田総裁は「企業にとっては、売上の増加が期待できないことから、人件費や原材料費の引き下げといったコスト・カットを行い、あるいは設備投資をできるだけ圧縮して、利益を確保し、財務状況を安定化するこ
2015年3月12日(木曜日) 1. はじめに 農林水産省が今年2月に発表した2014年の農林水産物・食品の輸出額(速報値)は、前年比11.1%増の6,117億円となり、過去最高だった2013年(5,505億円)を上回りました。政府は、成長戦略の中で農業分野をその1つに位置づけ、2012年に約4,500億円だった輸出額を「2020年に1兆円」にまで拡大することを目標に掲げており、順調な成果が生まれているように見えます。 この日本農業再生の重要な要素と位置づけられるグローバル化に関して、国の取り組みやその課題について、整理していきます。 2. 農業のグローバル化にかかる国の取り組み状況 日本で生産した生鮮農作物の輸出には、他の製造業と比較して様々な有形無形の障壁が存在します。一番に挙げられるのが、検疫の壁です。輸出先として期待される東・東南アジア諸国でも、例えば果物や野菜類のほぼすべてが中国
リリース、障害情報などのサービスのお知らせ
最新の人気エントリーの配信
処理を実行中です
j次のブックマーク
k前のブックマーク
lあとで読む
eコメント一覧を開く
oページを開く