もう二〇年も前だったか、渋谷陽一のサウンドストリートで、中国奥地のパンクバンド、ドラゴンズの「ゴッド・セイブ・ザ・クイーン」を聴いたことがある。かれらは受信状態の悪い短波放送でセックス・ピストルズを聴き、「なんかとりあえずワーワー言えばいいらしい、これならおれたちにもできる」と言って、とりあえずワーワー言うだけのスゲー楽隊を作ってしまったのだった。 その後かれらがどうなったのか知らない。でももし当時かれらの手元にあるのが短波放送ではなく、ネット経由のファイル共有だったら。ノイズとフェージングまみれではなく、クリアな音でセックス・ピストルズを聴いていたら。そしたらどうだったろう。たぶん、かれらはわざわざ自分でドラゴンズを作らなかっただろう。そしてかれらのまわりの人も、できそこないのドラゴンズなんか聴くかわりに、本家本元のセックス・ピストルズを聴いただろう。つまりかれらには創造するインセンティ