デニーズを愛していた。 ファミレス全般を愛していたが、デニーズは別格だった。 サイゼリヤやガストより値段が高い分、高校生の恋愛話や8時間コースの主婦たちの喧噪に巻き込まれなかった。 一方で、日替わりランチなら手頃だったし、贅沢をしたいときは1000円強で美味しいパスタやドリアにサラダとドリンクを付けることができた。 なにより、デニーズにはカリフォルニアの風が吹いていた そのデニーズの死は、突然のことではなかった。水たまりに落ちた軍手のように。少しずつ浸食は始まっていた。 かつてデニーズにドリンクバーは無かった。その代わり、ドリップコーヒーを頼むと、何杯でも店員さんが注ぎに来てくれた。ドーナッツさん(ミスター)と同じ仕組みだった。 学生時代、深夜のドリップコーヒーが僕を支えてくれていた。 東京にあった実家からバイクで7分。西荻窪のデニーズで。本を読んだ。映画を観た。音楽を聴いた。卒業論文を書