梅原猛氏が亡くなった。京都学派の精神を引き継ぎ、東西の伝統を融合した「人類哲学」を唱えた偉大な哲学者だった。新作能や新作歌舞伎の台本を手がけるなど、研究を離れた創作でも活躍した。全貌(ぜんぼう)はなかなか掴(つか)めないが、入口となる三冊をご紹介しよう。 まずは『水底(みなそこ)の歌』。氏は一九七〇年代前半、のち怨霊史観や梅原日本学と呼ばれることになる古代史研究の著作をつぎつぎ発表している。本書はその一冊で柿本人麿(かきのもとのひとまろ)を扱っている。 人麿は有名な歌人だが、じつは正体はよくわかっていない。人麿とはだれなのか。どこでどのように死んだのか。斎藤茂吉の説を論破するところから始まり、人麿はじつは権力闘争に敗れ、藤原不比等により流刑となり水死した高位の宮廷歌人だったのだと結論づける本著の展開は、じつに圧巻。氏の考えではそもそも万葉集自体が、権力に翻弄(ほんろう)された詩人たちが、そ