二〇〇四年春、東京・神保町。ロンドンの古書バイヤー、タイタス・ボーダー(58)は、立ち寄った古書店でモノクロ写真の束に目を留めた。二〇×二五センチほどの大きさで、二人の刑事を中心とする犯罪捜査の場面が写っている。フィルム・ノワール(暗黒映画)のようだが、生々しい。店主は不在で、店員が「映画のスチル写真かもしれません」と言った。 翌日店に戻ったボーダーは百二十枚すべてを購入。フジフイルムの古い緑色の箱に入った写真がロンドンに届いた。「すべてのプリントに、言葉を超えたエネルギーがありました」。聞き込みから捜査会議、鑑識の様子まで撮っている。被写体に俳優らしさがなく、実際の捜査の場面だと確信した。木村伊兵衛や土門拳など日本の戦後の写真家の写真を長年扱ってきたボーダーだが、渡部雄吉(わたべゆうきち)の名は知らなかった。なぜ犯罪捜査の場面を撮れたのか、どのようにして撮ったのか。そんな疑問を残したまま
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