映画「時をかける少女」のコスモロジー ラベンダーの甘き香り 小山昌宏 1 ラベンダーの憂鬱 「和子はいつも、学校の行き帰りに、小ぎれいな西洋風の家の前を通る。その家には、善良そうな中年の夫婦が住んでいて、庭には温室があり、その横を通るとき、かすかに甘い、ラベンダーの花の香りが、ほのかににおってきて、ほんのしばらく、和子をうっとりと夢ごこちにさせるのである」 (『時をかける少女』 113~114ページ) ラベンダーの甘く懐かしい香り、それは性衝動をたきおこす刺激性を加味し、うす紫の愛らしい花びらとはうらはらに、「男性的な匂いとしては欠くことのできないほどのものになる」。『時をかける少女』の全編にながれる「純粋性」は、ラベンダーの花のように、その階下にかすかなエロチィシズムを残存させている。大林宣彦はいう。 「この映画の主題は愛である」 「愛に彷徨ってゆく未来の人類たるすべての少年少女たちに心