ここに耕さんの名刺がある。耕さんが初めて東京トヨペットの品川本社を訪れたときのものだ。当時の宣伝部の宮田昇一さんから寄贈していただいた。名刺に添えて思い出が書かれている。 「記憶は定かではありませんが、たしかその日、岡田チームの面々から企業広告のプレゼンテーションを受けたはずです。そのときの岡田さんは、なんというか、好々爺然として後方に待機し、なにかボソボソと例の調子でおっしゃったのですが、どうも、グシャグシャ意味の分からない内容でした。……にもかかわらず、笠智衆のような存在感であったのは間違いなく、岡田チームの『妙な幸福』を垣間見たような気がしました」 岡田チーム、通称、岡田学校。真ん中にいるのは耕さん。『妙な幸福』は、むろん耕さんから生まれる。 川手正樹が、耕さんのクリエーティブディレクションをかくのごとく簡潔な筆致でデッサンしている。「スタッフを持ち上げ、やる気にさせて、周囲の雑音を