1 「語り」としての話芸 わたしは以前から、表現よみの本質は日本の話芸の中では落語に近いものだと考えてきました。最近、桂米朝『落語と私』(1)を読んで、あらためて、その考えを裏づけてくれる思いがしました。解説によると、この本は中高生向きに書かれた落語入門の本なのだそうですが、一般の落語入門の本としても明快なものだといいます。 表現よみの本質を代弁するような内容が書かれているのは、第一章「話芸としての落語」の「しゃべり方でこんなにちがう」というわずか七ページの節です。 米朝はまずはじめにいろいろな話芸を取りあげて、その語り方を解説しています。 おじいさんやおばあさんの語る「昔ばなし」や「活動写真の弁士」は「対話を入れながらナレーションで筋をはこ」ぶものです。そして、「漫談」は「演者が聞き手へ語り聞かせる話法」、「講談」は「講釈師がお客に物語を聞かせる芸」だといいます。これら四つの話芸