商売柄、台所に立つことは多いが、こんなに深遠な場所であったとは知らなかった。 まず、台所は人間の「外部器官」である、と著者は言う。人間は他の生物を食べて生きているわけだが、そのまま生食できるものを除けば、基本的に切り刻んだり、火を通したりして食べる。すなわち台所は、この工程を担う、人間の体外にある最初の「消化器官」であるととらえるのだ。これは逆に言えば、台所は生態系のもっとも人間社会に近い中継地点ということになる。自然を加工し、その栄養を摂取する最終地点であると同時に、体内から飛び出した人間の器官なのである。 そう考えると、原始時代、火を手に入れた人間が、焚き火で炙って食べる、その火こそが、消化器官としての台所の原型とも言えるだろう。そこから「信仰、畏怖の対象としての台所」という視点が出てくる。ギリシアのオリンポス12神のヘスティア、日本の庚申様など、台所には「竈神」がおり、古代ゲルマンで