数少ない大学の同期でアカデミアへ進んだ友人が、アカデミアを去った。 稀代の天才、とまではいかないものの、真摯に実験に取り組み、着々と手堅いいい仕事を論文として世に出して行く切れ者だった。何より彼には研究に対する人一倍の情熱があった。「俺は今、これを知りたいんだ!」と合うたびに現在のテーマについて嬉々として語る彼に、僕は憧れもしたし、こいつとポストを争うのか、という絶望感すら覚えたものだ。 実際、彼の経歴も業績も常に輝かしかった。 学生時代から頭角を現し、滞りなく学位を取ると、颯爽と海外に留学して帰国と同時に某旧帝大にポストを得た。絵に描いたような経歴だった。 研究者としてのみならず、性格も温厚で闊達、おまけに面倒見も良いことで知られた彼は、当然のごとく周りからも祝福され、「彼ならいい先生、いい研究者になるよ」と誰もが彼の未来を信じて疑わなかった。 しかし、今思えば、その頃から彼と会った時に