子供の頃から現在にいたるまで、僕はアメリカの雑誌『ナショナル・ジオグラフィック』の愛読者だ。好きな雑誌を一種類だけ選べと強制されたなら、僕は『ナショナル・ジオグラフィック』を選ぶだろう。 もの心がついたとき、この雑誌はすでに僕の身のまわりにあった。父親が購読していたのだ。幼児から少年へと成長するにつれて、『ナショナル・ジオグラフィック』と僕との関係は深くなっていった。最新号がアメリカから届くと、飽きることなく写真を眺め記事を読んだ。当時から現在までのバック・イシューが、ほとんど欠号なしにいまでも僕のところにそろってい… 底本:片岡義男エッセイ・コレクション『自分を語るアメリカ』太田出版 1995年 『アール・グレイから始まる日』角川文庫 1991年所収