いつも旅が終わらぬうちに次の旅のことを考え、隙あらば世界中の海や山に、都会や辺境に向かう著者。とは言っても、世界のどこに行っても自己変革が起こるわけではなく、それで人生が変わるわけでもない。それでも、一寸先の未来がわからないかぎり、旅はいつまでも面白い。現実の砂漠を求めて旅は続く。体験的紀行文学の世界へようこそ。 サントリーニ島を出た船がクレタ島のイラクリオンに着いたのは、到着予定時刻を90分も過ぎた夕方の5時。港に迎えに来ているはずのメネラオスがまだ待ってくれているか心配だったが、船を降りてほんの数秒で彼を見つけた。「長い時間待っていてくれてありがとう」と固い握手。短い指のひとつひとつに太い皴が刻まれた手。 島の中心地である港町イラクリオンは素通りして、南海岸にあるマタラに滞在することにする。1970年代にジョニ・ミッチェルが滞在していたことで知られる、かつてヒッピーの聖地と呼ばれた町。