日本ダービーで競走中の「急性心不全」のため、スキルヴィングがこの世を去ったのは残念至極だった。これに際し、Web上を飛び交った疑問の中に「馬にAEDはないのか」というものがあった。気持ちはよく分かるが、残念ながらない。「費用対効果」という経済的事情も大きいのだが、仮に全部脇に置けたとしても、現段階では開発可能な展望も乏しい。 第一に競走中の急性心不全が非常にまれだ。致死性の心不全の多くは心室が正しいリズムとは異なるタイミングで収縮する(心室性期外収縮)。加齢性の慢性心不全であれば、普段の心電図から心臓で何が起こっているのか検討もできる。一方で、現役馬が競走中に起こすと、多くの場合、心停止まで時間がない。急性心不全の心電図データを得るのは現状難しい。 こうした事情で、サラブレッドの心室性期外収縮に部分的にでも触れた論文自体がわずか2本しかない。アイルランドの外科が報告した運動時心筋梗塞の報告