『グリッチシティのとある夜』藤田祥平 存在するべきではない街、グリッチシティ。企業と犯罪帝国が牛耳る、タックスヘイヴン。あらゆる形の暴力が蔓延し、無力な人々の日常が急速に脅かされつつあるこの街の片隅で、ある一軒のバーがきょうも開店する。外国人居住区第10号、59区画にひっそりと居を構えた店の正式名は、「10-59(テン・フィフティナイン)」。しかし、このあたりでは誰もがこの店を「テンゴク」と呼ぶ。 タッチパネルから表のネオン・サインを点灯し、ドアのロックを解除する男は、しかし天使にも、ましてや天にまします主にも似ていない。BTCの制服に身を包み、目の下にクマをこさえた中肉中背のジャパニーズ。彼はカウンターの内側にまわり、レシピ・ブックとミキサーを起動すると、スツールに腰掛けて、ポケットから取り出したイワナミの電子版に目を落とした。 (客、来ないといいな……) 開店十秒ですでにさぼることを考
![『VA-11 Hall-A』PS4/Switch版発売記念!藤田祥平による小説『グリッチシティのとある夜』](https://cdn-ak-scissors.b.st-hatena.com/image/square/63b136bdc7de06b245b2c82a42b34c9bdfb40b5c/height=288;version=1;width=512/https%3A%2F%2Fsm.ign.com%2Ft%2Fign_jp%2Fscreenshot%2Fdefault%2Fva11-halla-03_twym.1200.jpg)