4月29日、全国36校の高校生たちが一堂に結集するはずだった「第7回高校生直木賞」の全国大会は、新型コロナウイルスの感染拡大のため、延期を余儀なくされた。以来、参加校の生徒たちは自宅にこもって候補作を読み、オンラインで友人と議論をつづけている。雌伏の時間を過ごしている全国の高校生たちへ――。「第7回高校生直木賞」候補作家5人が、自らの高校時代をふりかえって「読書体験」を綴る、連続企画の第3弾! 小川哲さん 僕の父はたいへん熱心な読書家で、書斎に収まりきらなくなった本が僕や妹の部屋に置かれていました。そのため、僕の部屋にはずっと、ドストエフスキーやチェーホフ、安部公房や太宰治などの本がありました。それらの本に幼少期から触れてきたので、こうして作家になることができたのです——というのは嘘です。どれも難しそうだったので無視していました。暇でどうしようもないときに、ときおり手にとることもありました