どんぶら川の上流にはざあざあ滝があって。 滝の上には桃の園があります。 そこで華やかな宴が開かれたのは三月。 桃の節句のことでした。 あれからそろそろ二か月。 桃の花は散り、緑が濃い影を落としています。 晴れた空を見上げながらてくてく歩くと、 大きな藤に出会います。 風が吹くたび、花房がふわふわ。 甘い香りがほわんと漂ってきます。 しかし、お気をつけくださいね。 花に見とれて足元をおろそかにしてはなりません。 この藤はひっそり沼のそばにあるのです。 沼には主が住んでいます。 その名も亀宿禰(かめのすくね)。 古墳時代から生きているのではと噂される亀です。 うっかり足をすべらせて、沼ぽっちゃん。 甲羅干しの邪魔などしたらたいへん。 宿禰じいちゃんにしこたま𠮟られ説教されます。 老人の話は長いのです。 沼のほとりは静かです。 藤の花ふわふわ、日差しはぽかぽか。 たまに水音、水鳥の羽ばたき。
