映画にロックを使ったからといって、そこにロックの精神が宿るわけではない。いかにロックを物語に溶け込ませ、映画的に表現するのか。それは作り手にロックと映画の両方に対する理解がないと難しい。そんななか、映画監督とミュージシャンの見事なコラボレートで、映画にロックの息吹を吹き込んでいるのが『麻希のいる世界』だ。音楽の才能を持ちながらも周りから孤立している女子高生、麻希。そんな彼女に惹かれていく由希。そして、由希に想いを寄せる同級生の祐介。そんな3人の人間模様を描いた『麻希のいる世界』は、音楽が添え物ではなく、キャラクターとしっかりと結びついて重要な役割を果たしている。 監督を手掛けた塩田明彦は、『どろろ』(2007年)、『さよならくちびる』(2019年)などヒット作を生み出す一方で、『害虫』(2002年)、『カナリア』(2005年)といった作品が海外の映画賞を受賞して作家性も高く評価されてきた。