「あなたがこの世で一番嫌いなものはなに? 冷めたエスプレッソ以外で」 米国文学の講義に用いる教本を眺めながら、奈津美が訊いた。奈津美と僕は講義が終わるといつも、女性の秘丘のような芝生に囲まれたアパートの一室でこんなやりとりをしている。 「ハルキスト、かな。彼らはたぶん、自分たちのことが客観的に見えていない」 テーブルには飲みかけの、冷めたエスプレッソが置いてある。僕は奈津美に言われた言葉を噛み締めながら、このハルキストのようなエスプレッソを飲んだ。 「みんな、嫌いよね、ハルキスト。私もだけど」 奈津美は大学1回生で、僕は2回生だ。春に米国文学の講義で一緒になった奈津美は、他の女子学生とは少し違って見えた。ただでさえ単位認定が甘いと知られる米国文学の講義で教本を買う真面目な学生は少ない。ましてや、毎回ノートまで持ってくる奈津美は、本当に大学の講義が好きでたまらないのだろう。 「本当に好きなも