年をとったら誰もが避けられない「物忘れ」。やがて認知症になるのではないかと、不安に思う人もいるだろう。著書『60歳のトリセツ』を出版した、脳科学・人工知能研究者の黒川伊保子氏は、あるときから物忘れを憂うのをやめたという。脳のプロだからこそたどり着いた、物忘れが怖くなくなる考え方とは? ご本人に語っていただいた。 そんなある日、師事していた言語学の先生に、その不安を打ち明けたときのこと。 齢80にならんとするその先生は、こうおっしゃった。「あなたが忘れるのは、まだ固有名詞だろう? 固有名詞なんて、たいしたことはない」 「そのうち、あなたがもう40年も生きると」と師は続けた。 「普通名詞を忘れるようになる。普通名詞を忘れるとね、ものの存在価値もわからなくなるんだ。たとえば、しゃもじを見て、これなんて言うんだっけ? と思ったとたん、それが何に使われるものだったかも闇に失せて思い出せなくなる」 私