朝鮮人強制連行―研究の意義と記憶の意味― /外村 大 戦後歴史学における植民地問題の欠落 以上のような状況をふまえるならば、1950年代において、植民地支配の過程で生じた様々な問題を歴史研究者が取上げ、研究として発表していく作業は極 めて重要な意味を持っていたと考えられる。しかし、この時期、日本人歴史学者においては、自国の行った植民地支配の問題についての認識は希薄であった。こ の点は、植民地支配や天皇制を下支えする役割を果たした戦前の研究について反省した上で新たな研究を展開しようとしていた戦後歴史学の潮流に位置する者も 例外ではなかった。 と言っても、朝鮮人が労務動員のために被害をこうむった事実を意図的に隠蔽したり、無視したりする研究動向が存在したというわけではない。そうした事実 は、戦後、日本人によって新しく書かれた朝鮮史や日本近現代史の著作にも盛込まれていた。だが、論述のなされ