「西域」はロマンの含有率がはなはだ高い言葉である。ある人は草木なきタクラマカン砂漠を行く隊商を思い浮かべ、ある人は敦煌の壁画を、あるいは彷徨(さまよ)える湖・ロプノルを連想する人もいるかもしれない。 ▼作家の井上靖さんは西域を舞台にした「敦煌」など数々の名作を世に送り出し、シルクロードブームの素地をつくった。その井上さんと司馬遼太郎さんらが昭和52年の夏、ウルムチやトルファンなど新疆ウイグル自治区を旅している。 ▼井上さんは帰国後、司馬さんと対談し、こう語っている。「(ウイグル人で)中国の人民服を着ている人などは、一人もいない。そこに、中国の少数民族対策の、やさしさのようなものが見られますね」(「西域をゆく」文春文庫)。 ▼大作家といえども人間である。それまでほとんど外国人に門戸を開いていなかった西域に招待されたのだから、筆先が甘くなるのも致し方ない。ただし、32年後の今、中国の少数民族対