これまで読んだ最高の短編小説は何かと訊ねられたら、迷うことなくジーン・ウルフの「デス博士の島その他の物語」という短編を挙げる(国書刊行会より刊行の同題短編集に収録)。それはとある浜辺に住む少年の話である。母親に顧みられない少年はいつも一人で本を読んでいる。孤独な少年の友達はその本の登場人物だけなのだ。物語の終わり、少年は悪漢のデス博士に語りかける。「この本、もうあと読みたくないよ。博士はきっと最後に死んでしまうんだもん」 デス博士は答える。 「だけど、また本を最初から読みはじめれば、みんな帰ってくるんだよ」 この言葉ほど読書の喜びと哀しみを鮮やかに示したものはない。この小説は二人称で書かれている。タッキー少年はぼくである。ぼくはかつて孤独な少年だった。あのころ、ぼくの友達は本の中にいた。りゅうのボリスとネズミのリーピチープが遊び相手だった。図書館に通って借りてきた本に読みふけった。読