老人は何度も同じ話をする。例えば、うちの祖父がそうだ。 今年90歳になる祖父は、認知症こそ始まっていないものの、会うと毎回同じ話を繰り返す。例えば、戦後すぐの話。祖父は闇市で飴の販売をしたり、コメや農作物と物々交換をしてもらい生計を立てていた。 「伊東でイカを仕入れて、長野まで夜行で持って行ったんだよ。おい、どうなったと思う?」 「さあ……」 「腐っちゃってたんだよ」 祖父、爆笑。 こちらはうつむきながら調子を合わせて、とりあえず笑っているような雰囲気を作る。100回近く聞かされたこの話が面白いわけがない。だが、こちらの考えなどお構いなしに、おそらく祖父は死ぬまで僕に向かってこの話をしていることだろう……。 大学教授として学生たちに民俗学を教える立場から突然、介護の現場に飛び込んだ民俗学者・六車由実は「介護民俗学」という概念を提唱している。老人ホームで、認知症の老人たちの生活史に熱心に耳を
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