中村 光夫 『時代の感触―時のなかの言葉』(文芸春秋) 「あるものを愛しつづけるのは、それが一生のこととなると、なかなかむづかしいので、文学の世界がどれほど広大であっても、これを養分として精神を生き生き保つのは、若いころ思っていたほど簡単なことではありません」 中村光夫がかくいってのけることに驚愕しつつ、続きを読んでみる。 「それを本気で心がけている者のひとりとして、この小著が僕と同じくらいな年齢の人になにか役立てばと思います。 現代で一番切実に文学を要求するのは、──本文でもふれた通り──人生から一歩退く時期にさしかかった人達と思われるからです」 59歳の中村光夫が書いているのは、いうまでもなく「文学の世界」から「精神を生き生き保つ」「養分」を「本気」で得ようとすることである。いいかえれば、「本気」でその世界を生きようとすることである。 かつてジャンボ鶴田が全日本プロレス入団の記者会見に