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2011年9月30日のブックマーク (1件)

  • 仮初めの住み処、懐かしい人生 - 記憶の彼方へ

    asin:4062136961 清岡卓行は八十三歳の死の年に自分の記憶のなかの断片の情景について次のように書いた。 長い場合には数十年、短い場合でも数年、私の記憶のなかに断片のままぽつんと孤立をつづけ、ほんのときたま、まったく不意に意識の表面に、それもなぜかそのときは鮮明に、あらわれてくる情景がある。 (中略) 私は八十歳を超えたころから、これら断片の情景をそのまま放置せず、小説や詩のなかでなくともいいから、とにかく文字で組み上げて一応は堅固に見える書きもののなかに、わずかな年月でも保存したいと思うようになった。 自分はそのうち死ぬとしても、それら断片の情景がすべて一度も文字でできた仮初めの住み処をもたず、私とともに地上から消えてしまうとすれば、それは物書きであるはずの自分の怠惰のせいではないかといった変な寂しさ、−−他人から見れば滑稽でしかないだろう寂しさを覚えるようになったのである。

    仮初めの住み処、懐かしい人生 - 記憶の彼方へ