【寒蛙(かんがえる)と六鼠(むちゅう)】 論説委員・長辻象平 タイトルを目にしたとき、ぴんときた。脳のポピュラーサイエンスの翻訳本である。読んでみると細部まで、ほぼ思った通りの内容だった。 自分の脳に苦悩していた米国人女性の半生記だ。彼女は自分の記憶力に手を焼いていた。もの忘れが激しいのではなく、忘れられなくて困っていたのだ。 タイトルは「忘れられない脳」(ランダムハウス講談社)。なぜ、書名だけで内容が見通せたかというと、私も彼女と同じ苦痛を抱えてきたからだ。 幼児期からの出来事のほとんど一切合切を覚えている。その膨大な過去が日常生活の中で脈絡なく、際限なく再生される。楽しいことばかりならよいが、そうではないのが人生だ。 「ぜいたくな悩みではないか」と思う人も多いだろうが、当人は本当に困る。なぜなら、消えない記憶は、どうでもよい雑事で占められているからだ。 覚えなければならない大事なことは