論 説 不法行為法における相当因果関係論の帰趨 刑法学の立場から 曽 根 威 彦 Ⅰ はじめに Ⅱ 相当因果関係論とその問題点 Ⅲ 相当因果関係論に批判的な見解 Ⅳ 相当因果関係論の再評価 Ⅴ おわりに Ⅰ はじめに 相当因果関係論は、民法の不法行為法および刑法の犯罪論において、今 日、くしくも類似の歩みをたどっているように思われる。相当因果関係論 は、従来、学説上、民法学においては、不法行為の成立要件としても、損 害賠償範囲の確定基準としても通説的地位を占めてきたし、また、刑法学 でも、犯罪成立要件の1つである因果関係論において同様に通説的地位を 築いてきた。判例においても、民法では、大正15年5月22日の大審院判決 (民集5巻386頁〔富喜丸事件〕)が不法行為法に相当因果関係論を導入して 以降、今日に至るまでこの理論は損害賠償法の 野で中心的な役割を果た してきた。また、刑法でも、か