最近神経症という言葉をほとんど聞かなくなった。DSMの用語(たとえば強迫性障害)が使われるようになったというのもあるが、そもそも神経症自体が減っていると思われる。神経症とは、真面目な人間がさらに真面目になろうとする力学で発生する。一昔前は、真面目であればあるほど望ましいという風潮があったのだ。今日では真面目さより温厚さが評価される。真面目さというのは、頑固さ・気性の激しさ・思い込みの激しさ・視野の狭さを含んでいるので、今日では忌避される。今日では、真面目な人間は、その真面目さの度合いを下げることが求められ、空気を読んで柔軟に物事を見るように努力する。それによって厳格さは低減することになるから、厳格さによって発病する神経症にもなりづらい。われわれはそういう時代の価値基準に従って存在しているのである。 現世に生きるわれわれ空蝉は他人から評価されるために生きているのである。それにより時代に取り込