しろはた三国志(改訂版) 日本においてもっとも「三國志」の物語を普及せしめた作品は、言うまでもなく戦前に書かれた吉川英治版「三國志」である。この小説は中国の小説「三国志演義」を日本人に受け入れやすいように翻案したものであるが、「演義」という二文字を省いたために、以後、日本では長らく歴史書の「三國志」と小説の「三国志演義」が混同されることとなった。つまり、小説「三国志演義」は、歴史書である「三國志」に描かれた三国時代の歴史を、物語として脚色して作られた文学なのであって、実際の史書ではないのだが、その当然の事実を多くの人間が忘れてしまったかのようになっていたのだ。 例えば、「平家物語」が、源平の合戦を元に書かれた文学作品であって、史書ではないというのと同様に、「三国志演義」もあくまでも文学なのである。 そしてこの「三国志演義」ものは、漢民族が北方の異民族に中原を追われて江南へ避難するとい