水無田気流(本名:田中理恵子)は二つの顔を持つ。気鋭の現代詩人としてのそれと、女性問題や少子化、世代間格差などについて精力的に発言する社会学者としてのそれだ。そして僕がこれまで付き合ってきたのはおもに詩人としての彼女だ。僕らは東京工業大学と朝日カルチャーセンターのコラボレーション企画としての連続講義「Jポップと現代社会」を一緒に担当し、SMAPについて、ドリカムについて、ミスチルについて、あるいは浜崎あゆみについてひたすら語り合った。 僕にとっての彼女、つまり詩人・水無田気流は乾いた言葉を好んで用いる、少し感傷的な詩人だった。そして言葉に対して驚くほど敏感な批評者だった。そんな彼女のもうひとつの側面、つまり社会学者・田中理恵子と付き合うようになったのは、そのしばらくあとの話だ。トークイベントやテレビの討論番組で顔を合わせる彼女は、「〜しなければならない」という義務感に全身を震わせながら発言