インフルエンサーの私小説ではない 普通、そうしたインフルエンサーが何かを発信する時、100万人のファンが期待するのは彼女が自分自身について語ることである。「私ってこうなの」と松井玲奈が口を開けば100万人が耳をすませる。だから松井玲奈が小説を書くと発表した時、人々が期待したのは私小説、自伝的小説だったはずだ。 『カモフラージュ』松井玲奈 著 だが『カモフラージュ』はインフルエンサーの私小説ではない。それだけではなく、この小説からは松井玲奈に人々が期待する多くのもの、「売れる」「バズる」要素が意図的に排除されている。そこには芸能界の内幕もない。ロマンティックな恋愛もない。あなたを元気にする魔法の言葉も、涙の美談もない。ネットで流行りそうなパワーワードもない。 これはとても静かで理性的な小説である。「鼠の小説には優れた点が2つある。まずセックス・シーンの無いことと、それから一人も人が死なないこ