兆(きざ)しはあった。 それまでは冬眠から目覚めたばかりなのかと疑うほど旺盛だった食欲が、二週間ほど前を境にしてぱったり減退したことがひとつ。 そしてもうひとつは、時期を同じくしてあれほど好きだった散歩に行きたがらなくなったことだ。桜色のリードをひとたび手にとれば、そりゃあもう革命でも起きたみたいに大騒ぎして、リードを持つ俺を苦笑いさせるのが夕方の恒例だったのに。 しかし俺ははじめそれらの異変を、死の前ぶれとして捉えることはなかった。 そもそも花見の日から十日以上が経ったその頃というのは、ちょうど一学期中間テストの真っ最中で、俺は意識のほとんどを二年生最初の試験に注がねばならなかったのだ。もちろん居酒屋のアルバイトは休みをもらっていた。そして家では食事をなるだけ簡単に済ませ、寝る間も惜しんで机に齧(かじ)り付いていた。 そのような状況下においては、どうしたってモップの優先順位は下げざるを得
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