真っ昼間からビールを飲んでいたら、ドアホンが鳴った。 それでドアを開けてみると、そこには蟻が立っていた。 「キリギリスくん」と蟻は言った。「こんな時間に悪いね」 「ちっとも悪いことないよ」とおれは言った。 「レオス・カラックスの映画を観ようと思ってたんだ」 「キリギリスくんは気楽な身分で羨ましいよ」と蟻は言った。 蟻とおれは大学の同期。 蟻はせっせと働いて今では大規模なプロジェクトをひとつ任されるようになったそうだ。 かたやこのおれは就職に失敗してイオンのバイトで生計を立てている。 人生(?)なんてそんなふうに分かれていくものなんだろう。 おれが差し出したビールを一気飲みした蟻は言った。「最近大変なんだ」 「そうだな。蟻って忙しそうだもんな」 「仮眠を取る時間さえないんだよ」そう言って蟻は煙草を取り出し火をつけた。 「蟻は寝ないんだ。その代わり仮眠を何百回と取って……」 「その話なら学生の
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