「まず牛を球とします。」 [著]柞刈湯葉 牛を球にするってどういうこと? と思って読んだら、文字通り牛が球になっていた。牛肉は食べたいが、動物は殺したくない。そんな人間の思い(エゴ?)が生み出した大豆由来の牛球が、培養液の中をゴロゴロ転がっている。そして見学者が、「球よりも立方体のほうが、隙間がなくて効率的なのでは?」「あの、牛は、目を回さないのでしょうか」などと質問している。彼らの世界ではこれが普通で、素朴な疑問をぶつけているだけなのだ。ちなみにこの作品、別の出版社で「倫理的にダメ」とボツになったものだという。たしかに、現代の倫理観では牛を球にするのはダメかもしれない。でも、こんな未来が到来しないとも限らない、という妙な説得力が滲(にじ)んでいる。 そんな表題作を含む14編は、いずれも作者のSF的想像力によって、どこまでも力強く自由に展開されていく。コロナ禍の日本に突如現れた、VTube