先の『海辺のカフカ(上)』では、『父を殺し、母と姉と交わる』と予言された少年の受難が描かれました。彼は機能不全家族の影響と思われる解離性障害により予言を疑似体験してしまいす。それはまるで、ポストモダン思想の文脈に掲げられた「エディプス・コンプレックス」「分裂症」「無意識の欲望」を彷彿とさせます。 本書と同じ系譜の『世界の終りとハードボルド・ワンダーランド』においても、ポストモダン思想の影響を色濃く受けたモチーフが描かれていました。そこでは、その思想に背を向けるかのように、主人公が森の奥へ入っていく場面で物語は幕を閉じました。森の奥にいったい何が待っていたのか、それは謎のままにされています。 今回ご紹介する『海辺のカフカ(下)』では『入り口の石』の封印が解かれ、カフカ少年は四国の森の奥に導かれます。今再び森の奥の秘密が明かされようとしているかのように。 《あらすじ》 「入り口の石」の謎の鍵を