東京にはすべてがあって、なにもない。 私は東京生まれで、一応江戸っ子でもある。 小さなころは東京に、江戸を感じていた。 夏の運河の少し焼けた潮の匂い。築地市場で喧しく行われる競り。 神保町の古本街、数学の本を買ってもらった八重洲ブックセンター。 明治維新の跡と古くからある仏閣。巨大な鯨の骨の博物館。 ちょっと背伸びして読んだ文学。根津の紫の桔梗たち。 この余白ともいえる文化のかおりが、子供の私は好きであった。 あの時のままに東京が見えていたら、東京になにもない、などと言わなかったと思う。 でも毎年父の仕事場から見ていた隅田川花火大会は、湾岸開発で見えなくなった。 新宿御苑の緑は、ギラギラしたビル群が借景になった。 私の知っていた江戸は、どんどんだれかに取られていった。 私の生まれるずっと前から東京だったけれども、今の東京は、江戸ではない。そんな変な感じがしている。 受験戦争。 わたしも一応