日本が戦後の混乱から抜け出し、高度経済成長期に差しかかった昭和30年に起きた「森永ヒ素ミルク中毒事件」。その被害に今も苦しむ人がいる。猛毒のヒ素が混入したミルクを飲んで脳性まひを患い、症状の悪化が続くとして今年5月、大阪市内に住む女性(68)が製造元の森永乳業(東京)に計5500万円の損害賠償を求め、大阪地裁に提訴した。森永乳業側は事件後、恒久的な救済義務を負うと被害者側に約束したが、今回の訴訟では争う姿勢を見せている。 「奇病」とされた中毒症昭和30年6月ごろ、岡山県を中心に西日本一帯で発熱や嘔吐(おうと)、下痢などを訴える乳幼児が続出。「原因不明の奇病」として、世間を不安に陥れた。 乳幼児の共通点は、森永乳業の粉ミルクを飲んでいたことだった。8月、岡山県衛生部は、同社徳島工場で生産された粉ミルクに大量のヒ素化合物が混入していたと発表。奇病とされた症状は、乳質安定剤として使用した「第二リ