池袋のジュンク堂で「木田元書店」というのをやっている。といっても、7階の片隅に木田氏の著訳書と蔵書が並べてあるだけだが、入口に本書がたくさん積んであったので、既視感もあったが買ってみた。著者は「反哲学のなんとか」という本を何冊も書いていて、どれも似たような内容だが、本書が一番まとまっていてわかりやすい。 「反哲学」という言葉には、そもそもphilosophy(知を愛すること)を「哲学」などと訳したのが誤訳だという意味もこめられているのだが、解説の中心は何といってもプラトン以来の哲学を全面的に否定したニーチェである。日本では、ニーチェというと『ツァラトゥストラ』の文学的なイメージでとらえられることが多いようだが、あれは本来の「主著」の導入ともいうべき叙事詩で、ニーチェの本質は『力への意志』と名づけられている未完成の遺稿を読まないとわからない。 著者の専門であるハイデガーも、ニーチェの圧倒