今年は庭の烏瓜(からすうり)がずいぶん勢いよく繁殖した。中庭の四(よ)ツ目垣(めがき)の薔薇(ばら)にからみ、それから更に蔓(つる)を延ばして手近なさんごの樹を侵略し、いつの間にかとうとう樹冠の全部を占領した。それでも飽き足らずに今度は垣の反対側の楓樹(かえでのき)までも触手をのばしてわたりを付けた。そうしてその蔓の端は茂った楓の大小の枝の間から糸のように長く垂れさがって、もう少しでその下の紅蜀葵(こうしょっき)の頭に届きそうである。この驚くべき征服慾は直径わずかに二、三ミリメートルくらいの細い茎を通じてどこまでもと空中に流れ出すのである。 毎日夥(おびただ)しい花が咲いては落ちる。この花は昼間はみんな莟(つぼ)んでいる。それが小さな、可愛らしい、夏夜の妖精(フェアリー)の握(にぎ)り拳(こぶし)とでも云った恰好をしている。夕方太陽が没してもまだ空のあかりが強い間はこの拳は堅くしっかりと握