近くて遠い国ロシア。プーチンという独裁者によって支配されるこの国は、国際社会において特異な存在感を示してきた。だが、この国で起きていることを知るのは意外に難しい。特にマスメディアに関することになると、なおさらだ。本書はそんな状況下にあるロシアのテレビ局TNTでプロデューサーを勤めたロシア系イギリス人が、ドキュメンタリー番組制作のために取材した市井の人々を通して、発展する経済、行政の汚職、クレムリンのプロパガンダに翻弄されるロシア人の姿を記した傑作だ。 著者が働いていたTNTは娯楽番組に特化した放送局だ。ピンク、ブルー、ゴールドという明るい色で塗られた局のロゴに「私たちの愛を感じて」がキャッチコピーのテレビ局。 これこそが必死で幸せそうにふるまう新生ロシアそのものであり、ロシアのTNT放送局のイメージだ。若々しくて元気がよく、一見華やかな国。テレビ局は躁常態の黄金とピンクの光線を、人々の暗く