朝の光に香る菫の花のような笑顔で、彼女は「誓います」と答えた。 「では、誓いの口づけを」 甘い唇が重なって、みんなのひやかしの声や祝福の拍手の中、“文学少女”な先輩で編集者で恋人な彼女は、井上遠子【いのうえ とおこ】になりぼくの奥さんになった。 そんなこんなで半年。 春。 《ぼくらの食卓 其の一》「心葉【このは】くん、今日は鰆【さわら】の木の芽【このめ】味噌焼きと、あさりと菜の花の茶碗蒸しよ。お吸い物はわらびにしてみたの。四季の歌と恋の歌をたっぷりつめこんだ『古今和歌集』みたいに、優雅で繊細な春の歌ならぬ春の食材シリーズよ」 どうぞめしあがれと、綺麗に並べられた夕飯の向こうから、清楚な瞳をきらきらさせて見つめてくる。校了明けの遠子さんは、それまで家事をサボっていた分を挽回しようとするように、気合いを入れて料理を作る。 遠子さん自身は本のページや紙に書かれた文字を食べて生きている妖怪――いや