「なあモリさん、俺にはな、娘がおるんや」 霧雨の降る日曜の午後、朝からずっと落ち着かない様子で家の中を秀さんは、床に寝そべるおれの顔を覗き込んで言った。 「子どもなんて、スグきるもんやろと思てたんやけど、1年たっても2年たっても3年たってもどうにもでけへん、それで病院で調べてもろたら、里佳子さんは健康そのもの、いつでもママになれますてことやったんやけど、俺があかんかった」 ニンゲンの繁殖事情はよくわからないが、ともかく秀さんは細君の里佳子殿との間になかなか子が授からなかった。そしてそれの原因は秀さんにあったということらしい。医師から 「自然に子どもを授かることは不可能」 そのように聞いて落胆する秀さんに、細君である里佳子殿は子どもがない夫婦など世の中にはいくらでもいるのだし、子どもを持つことはこの結婚の絶対条件ではないはずだと秀さんに言ったそうだ。しかし秀さんはお子を諦めることができず、最