あなたの名前を、忘れたとしよう。 自分がどこで生まれたのか、誰を愛したのか、昨日の夕食に何を食べたのか。その一切が消えている。だが不思議なことに、水の化学式がH₂Oであることは知っている。リンゴが木から落ちる理由も、太陽が8分20秒前の光を届けていることも、なぜか身体のどこかに刻まれている。 私含め多くの原作ファンが、この映画化をずいぶん長いこと待ち続けていたに違いない。想像するに、劉慈欣の『三体』をはじめとする海外ハードSFの波に乗って「こんな世界があったのか」と打ちのめされた人々が、次の一冊を求めてさまよい、たどり着いたのがこの小説だったのではないだろうか。あるいは単純に、ライアン・ゴズリング主演という一報を聞いて原作に手を伸ばした人もいるかもしれない。いずれにせよ、宇宙の恐怖ではなく宇宙への好奇心を、人類の暗部ではなく人類の善意を、これほど緻密な科学的考証の上に描いた作品は、そうある

