「水に流す」という言葉が好きで、過去のさまざまな出来事を忘れようとしてきた。しかし、どうしても九州場所でのあの一番は頭から離れない。 12日目の白鵬-遠藤戦。立ち合い、白鵬はサポーターをつけた右肘で遠藤の顔面を打ち抜いた。しかも、左手で相手の顔を押さえ、逃げられないようにしているところに悪意を感じる。その後も左右から荒々しく張って土俵に沈めた。遠藤の鼻からは血が滴り落ち、土俵は赤く染まっていた。 過去の大横綱もかち上げをしていた-と指摘する人もいる。しかし、それとこれとは、まったく性質の異なるものだ。 かち上げとは、立ち合いで自分の腕を振り上げ、相手の上体を起こす戦法だ。白鵬の場合は最初から顔の高さに腕を持っていき、相手を痛めつけるためにやっている。「肘打ち」と呼ぶ方がふさわしい。両者が竹刀一本で戦うだろうと誰もが注目していると、いきなり短刀を抜いて切りつけるようなものだ。 あの肘打ちが目