丁寧な暮らしに憧れている。実家暮らしの時はそもそも自室にしか自分だけの空間と生活は存在していなかったため考えてもみなかった。東京を離れ一人暮らしをしているというのに、汗水流して稼いだお金を使うアテもなくギャンブルに突っ込んで増えたり減ったりと一喜一憂する日々は丁寧とは程遠いだろう。未だ手に入らぬ丁寧な暮らしを獲得すべく、わたしは家を飛び出した。 求めているものはYogiboである。いわゆる人をダメにするクッションだ。「人をダメにする」だなんて売り文句、よほど座り心地に自信がないとつけられないだろう。なにより、ダメになることが確定しているものを購入するその懐こそ、生活に余裕があるという何よりの証左ではないか。ベッドか地べたに座りパスタを食べる毎日から、Yogiboに座ってパスタを食べる毎日を夢想していた。 Yogiboは商品名でもあり、店名でもあった。Yogiboは欲しいと思わない限りその存