「祖父が倒れたらしいので、ちょっと村に帰って様子を見てきてくれないか」。東南アジアのどこかの工場で働いている父から連絡が入った。とりわけ忙しくもない大学生のぼくは、東京をあとにして、本州最北の田舎に急いだ。季節は冬に入るころだった。 村は東京に比べてひどく寒かった。村は山の中にあった。雪はまだ降っていなかった。 祖父は床に伏せっていた。自分の記憶より、さらに老いて小さくなっていた。 「じっちゃ」と、ぼく。 「……おう、来たか」と、祖父。 ぼくの目を見据えると、こう切り出した。 「おまえに、頼みたいことがある。わしの代わりに、あの荷を『桜を見る会』に届けてくれんか……」 祖父は部屋の隅を指差した。そこには、きれいな織物に包まれた桐の箱が積み重ねられていた。 「曲げわっぱけ?」とぼく。 祖父は古くから続く曲げわっぱ職人の子に生まれた。祖父も小さなころから修行を積み、曲げわっぱ職人になった。その